【仮名：佐藤 一郎さん・85歳】
「言葉がなくても伝わるもの」──認知症と共に歩む祖父と、静かな絆

佐藤一郎さん（仮名・85歳）は、認知症の初期から中期にかけての症状が進みつつあった。
一人暮らしの彼を支えるのは、離れて暮らす娘と、定期的に訪問するスエルテ東京のセラピストだった。

「最近は会話もままならず、昔の記憶も薄れてきた」と娘は心配していた。
そんな中でも、祖父の表情はセラピストが訪れると穏やかに変わるという。

「今日は誰が来るの？」と尋ねられなくても、待ちわびるその時間

セラピストが玄関をノックすると、佐藤さんはゆっくりとドアを開ける。
名前もよく思い出せないが、彼女の優しい手の温もりだけはしっかり感じ取っている。

手を取って背中を優しく揉む施術は、言葉以上の安心感を与えた。
セラピストは無理に話しかけず、静かに寄り添い、ただ「今」を共に過ごすことに集中した。

記憶が曖昧でも、心は通じ合う

ある日、施術中に佐藤さんがぽつりと呟いた。
「ありがとう……忘れても、また来てくれるか？」
それは言葉数少ない中での、深い信頼の証だった。

「また必ず来ます」とセラピストが微笑むと、佐藤さんの瞳に一瞬だけ輝きが戻った。
それは、忘れかけていた日常の温かさのひとときだった。

——言葉がなくても、確かな絆は生まれる。

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